所用で出かけていたキュウゾウがリビングに足を踏み入れると、耳に馴染み過ぎる程馴染んだ声が聴こえて来た。
それは、実を言うとしかし珍しい事で、だから、僅か…眉を顰める。
嫌いな訳ではない…。
特別好きでもなかったが、同居人であり、仕事上の相方でもあるシチロージと出逢ってからは尚の事。
彼と出逢えたのも、ソレのおかげでもあったし。
『イイ声ですよvv』と彼が言うから。
手放しで、褒めるから。
ほんの少しだけど、好きになった。
それに、今となっては『商売道具』でもあるので。
広々として明るいリビングダイニングは、同時に、シチロージが自宅で仕事をする時には臨時のスタジオに変わる。
彼の自室程ではないけれど、オーディオ設備もあるし、予備のキーボードなんかも置いてある。時によってはギターも。
硝子テーブルの下の棚には、いつ思いついても大丈夫なように、筆記具と五線譜とメモ。
ただ、キュウゾウに聴かせる為な場合を除き、シチロージが音を出して聴いている事は案外と少ない。
作詞中等は、女性ヴォーカリストの柔らかな声をBGMにする事もあるけれど。
キュウゾウの歌う声を…つまりは自分達の曲を聴いてる事はまずない。
皆無ではないにしろ。
視線を巡らせれば、音の出所は窓際に据えられた大型テレビと知れた。
神殿を模したセットの中、祈るよう額ずくシチロージと、崖からふわり飛び降りるキュウゾウの姿が交互に映し出される。
「さっき届いたんですよ、こないだ撮ったPVのサンプル盤」
キュウゾウの、内心を見透かしたような声。
「おかえり」
振り向いたシチロージがニコリ笑って云うから、彼が完全仕事モードでない事が知れる。
ただ、ローソファに腰を下ろした彼の手元にはスケッチブック。
「アンタが帰って来るのを待とうかとも思ったんですけど…ちょっと気になって」
そう、言葉を紡ぎながらも、手は止まらない。
傍らに歩み寄り、その足元に座り込めば、案外と雑に破かれた包み。
間近から覗き込めば、白い紙の上、サラサラと描かれていたのは絵コンテ。
簡略化されてはいるが、今流されているようなPV用の。
作詞作曲編曲と云った曲作りと演奏は勿論、マネージメント業務に近い事もこなすシチロージは、また、ライブの構成やステージ上のセットの案も出せば、衣装のデザインもする。
無論、最終的にソレらを形にするのは本職のスタッフではあるのだが。
「コレの」
云って、一時手を止め、ペンで画面を指差して見せ。
予約特典にボーナストラックを入れようかって話がありまして…と、続ける。
キュウゾウには、まったく初耳な話だったが、本決まりでない企画である場合、珍しい事でもない。
概ね決まってから、シチロージに聞かされ、そうでない事はまるっきり知らない事に不満は無いのかと聞かれた事もあるが、しかし、聞かされる前に立ち消えるような仕事にはさして興味が沸かず、狙ったかのようなタイミングでやってみたいと思っていた話が持ち込まれたりしている現状で、不満など抱く余地は何処にもない。
「花…?」
ページを繰り、再び動きだしたペンの動きを追い、サラサラと、描き出されるモノの形を捉えキュウゾウが云えば。
「花…と云うかブーケですね」
予約して買って下さった方に感謝の花束を差し出す感じで。
花束のUPでフェードアウトってのも面白いかなぁって思ったんです。
幾パターンか、花束の形を描きながら、シチロージ云う。
彼がそう口にして云う以上、それが実現するのは間違いなかった。
後日、撮影に使われたのと同じ花束が、予約した多くの中から抽選で選ばれた一人の女性の手元に届けられるのは…また別の話。
end
遅くなってしまいましたが、お誕生日を迎えられたMorlin.様にvv
2010/04/14 by 未来 恵 (ミキ メグム)様
*未来様のところの“79音楽ユニット Ver”
女子高生のお話を書かせていただいた折、
こちらのお二人にもこそり出ていただいてまして。
イメージは、う〜〜〜ん、年齢がばれるけどアクセスとか?(スペルが出ない…)
ああでも、彼らだとちょっとビート効かせすぎですね。
クリスタルとか羽とか、幻想的なPVが映える、綺麗どころのお二人。
シチさんが真性の天使というか小悪魔というかな時があるのがまたお素敵です。
大切にしますvv 宝物ですvv
未来 恵 様のサイトさんへ


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